経営戦略の定義は「会社の目的・目標達成のため、経営環境の変化に対応しながら、競争優位を持続的に維持できるよう、自社の強みを活かし、資源を効果的に運用すること」です。
さらに短く一言で表せば、「目的・目標達成のシナリオを描き、資源を有効活用すること」です。
会社経営には目的や目標があります。理念・ビジョンと言い換えてもいいかもしれません。社会への貢献、顧客の創造と満足の追求、社員の幸福の追求、株主価値の向上など企業経営には目的があります。そして目的への到達度合いを測る指標として目標(利益、株価、成長率、市場シェア等)があります。
そして変化する経営環境の中で目的・目標に到達するシナリオ(道すじ・ストーリー)を描き、資源の効果的な配分と自社が生き抜く術を獲得していく必要があります。
例えば自動車メーカーのスズキは、徹底的な集中戦略と弱者戦略で競合ひしめく自動車業界で生き残ってきた企業です。限られたユーザーに対して軽自動車という商品にリソースを徹底的に集中させ、ハイテク分野やバッサリ切り捨ててしまうことで大手との直接競争を避けています。その結果日本の軽自動車市場においては競合他社へOEM生産まで行うなど軽自動車市場で大きな存在感を放っています。
もし会社経営に目的も目標もなければ経営戦略は必要ないと言えます。下図のように目的・目標という未来に設定した旗があるからこそ、達成までのシナリオ(道すじ)が必要となるのです。成り行き任せの場当たり的な経営であればシナリオを描く必要もなく、そもそも描くことができません。
将来ありたい姿に加え、現状認識があることでギャップを認識でき、ギャップを埋めるためのシナリオを描くことができます。
登山に例えると、目指すべき頂上がどこにあり、現在自分たちがどこにいるかが分かれば、ルートを検討することができます。ルートは1つとは限りませんし、どのルートにも様々な困難がつきまとい、これをクリアするための装備や能力が必要になるでしょう。自分たちの能力を加味し、いくつかある選択肢の中から、もっともゴールに向かって有効であろうルートを設計・選択することが戦略策定です。
もしヒト・モノ・カネ・情報・時間が無尽蔵に活用できるのなら、戦略を立てる必然性は少なくなるでしょう。目的・目標のために限りなく経営資源を投入しつづければ必ず成果はでますし、売上やコストや資金繰りの心配も一切必要なくなります。
例えば時間とお金が無限にある映画好きの人は、「今日何の映画を見ようか」と悩まないはずです。今日見た映画がつまらなくても、時間もお金も一向に無駄にしていないわけですから、また見たい映画を見つけては気の赴くままに見るということを繰り返すでしょう。入場制限がかかる人気の映画であっても待ち時間のロスを気にする必要もありません。
しかし現実にはそんなことはあり得ることもなく、どんな大企業であっても経営資源には限りがあります。資源に限りがあるということは、シナリオ構築にあたり資源の効果的な使い方や配分を考えねばならないということになります。
特に「時間」という経営資源は万物全てに平等に与えられた資源です。時間的制約の中、各企業が持つ固有の経営資源活用の巧みさが戦略の有効性を表します。
つまり経営資源の量・質に大きな強みがある企業は、取りうる戦略パターンが増え、戦略策定の自由度が高まるということが言えます。大企業が多角化を推進できるのもこの事実がその理由の1つです。
したがって、経営資源に多くの制約がある中小~小規模事業者には、確たる戦略が必要となります。「中小・小規模事業者にあまり戦略は必要ないのでは?」という意見を伺うことがありますが、むしろ経営資源が不足する中小小規模事業者こそ、巧みな資源獲得と資源配分の方策が必要となります。
もし市場に競争相手がおらず、その製品が世の中に必要とされる必需品であれば、競争に勝つことを考えなくとも会社は必ず利益を獲得し続けられるでしょう。かつて電気・水道・鉄道・金融機関・通信などのインフラは、国の保護政策の下供給体制が確立されていため、倒産や破綻という可能性は低いものでした。その一方でサービスレベルは今と比べれば劣るものであり、価格も高いものでした。
それが民間企業へ門戸が開かれたため競争が発生し、より良いサービスが低価格で受けられるようになり、社会は豊かになりました。
多くの産業は一定のルールに基づき競争が行われています。この競争下で企業が顧客・市場から受け入れられるためには競合との違いがなくてはなりません。シナリオを実現可能にする差別化された競争優位性を確立することが求められるのです。
スターバックスは喫茶店というカテゴリーではなく、サードプレイスという「家でもオフィスでもない第3の空間」
※経営戦略の策定手順や構成はこちらの記事をご参照ください:経営戦略の構成