事業経営における大敵、それは「得体の知れぬ不安に悶々とすること」です。景気変動、競合他社の攻勢、そして資金繰りや社員の言動など、経営にはあらゆる場面で不安要素が付きまといます。経営者はその重圧の中で会社の舵をとっていく役割を担っていますが、状況によっては精神的プレッシャーや不安に苛まれ、暫し進退窮まることもおありになろうかと思います。
本日の記事では、そんな経営者の不安に効くとっておきの妙薬を処方します。
「得体の知れない不安」への妙薬、それは
事業継続に必要な経営数字を明確にすること
です。
たったそれだけですか?と思われる方もいらっしゃると思います。しかし、たったこれだけのことで、悶々とした表情でご相談にいらした社長さんの顔色に血色が戻り、生き生きとした表情で事業に希望を見出される姿を何度も拝見してきました。
さて、事業経営者にとっての不安の根源は、何といっても「事業の継続可能性」でしょう。人は終焉に対して不安を抱きますが、事業に関しても同じことが言えます。そして事業の継続可能性の鍵を握るのは、やはり「利益とキャッシュ」です。この2つを確保しなければ、社会的にどれほど素晴らしい事業をおやりになっても、これを継続していくことは叶いません。
では、「利益やキャッシュ」が少ないことや減少していることが問題なのでしょうか?いいえ、そうではありません。問題は「利益とキャッシュ」が少ないことではないのです。不安を引き起こす真の問題は「あなたの事業にとって適切な利益やキャッシュ等の「経営数字」が、どうあれば適切なのかが分からない状況」にあるのです。
この状況を登山に例えるなら、山中で深い霧の中に迷い込んでしまい、山頂もコースも見えなくなっている状態です。
不安から解放され、前向きに事業経営に邁進していくためには、この視界を遮るモヤを払拭することが必要です。事業にとってあるべき経営数字を見える化するということは、視界を遮るモヤを払拭し、目指すべき山の頂とそこへ到達するまでのコースを鮮明に描くということに他なりません。
貴方も、霧の深い朝に太陽が差し込んできて視界が開ける爽快感を味わったことがあると思います。それは経営においても同じです。あるべき経営数字を明瞭に解像度高く認識することで、それまでの不安に硬直した思考が動き出し、前向きな気持ちと自信が心に蘇ってくるのです。
あるアパレル店は、外出自粛の影響から大幅な売上減少に見舞われていました。「何から手を付ければいいか分からない」という経営者の言葉が示していた通り、外部環境の急激な変化に対してどんな策を講じれば良いかが判断しかねる状況でした。
私は「まず事業を継続するために必要なあるべき経営数字の姿を作ってみましょう」と提案しました。そして主に次の指標を重点的に設計しました。
これらの数字を論理だてて見える化したところ、実は社長さんが思っているほど売上高を回復させる必要はないことが分かったのです。あるべき経営数字が見えていなかったが故に、闇雲に売上を回復しなければならないという意識が必要以上に働き、余計な気を揉んでいた状態だったのです。
もちろん、必要経常利益を生み出すためには固定費の削減や粗利益率の改善も組み合わせることが必要です。しかし、暗闇の中で達成水準が不明な売上だけを追うより、売上・粗利益率・固定費を少しづつ改善するほうが、圧倒的に目標利益を確保しやすいことを社長は理解されたのです。
このあるべき経営数字をお見せした社長は「それぞれの指標をこの程度改善するだけなら、頑張れば実現可能だ」と表情に自信を漲らせていました。経験豊富な社長は、このあるべき経営数字目標からさっそく改善施策を矢継ぎ早に打ち出し、業績を回復させています。
このように、今の事業にとってあるべき経営数字を解像度高く明確に描くことで、目の前が明るく開け、不必要に強く感じていた不安が軽減され、自信が漲ってくるのです。業績の落ち込みや伸び悩みの時期、新しい販売施策や資金調達方法を考える事も大切な行動です。しかしその前に一呼吸し、「今本当に挙げるべき業績(経営数字)は何か?」を論理的に見える化してみることをお勧めします。事例が示すように、必要以上に気を揉んでいたことに気が付くケースは殊の外多いものです。経営者が心の平静を手に入れれば、それが社員にも伝わり、組織に活気も漲ってきます。
必要数字を見える化するというシンプルな妙薬。是非活用してみてください。