設備投資の経営判断③回収期間・収益性の算定方法
2020/8/12記事投稿
2020/12/1加筆・修正
経営判断における優先順位を検討する
通常、設備投資案は複数検討されることが多いですが、最終的に採用できるのはどれか1つです。
・初期投資費用は多額だが、長期にわたって安定収益を生み続けられるA案 ・初期投資は少額ですぐに投資費用を回収できそうだが、その後のリターンは小さいB案 |
このように複数の投資案があった時に、回収期間や収益性の視点から優先順位を検討します。
投資案の評価基準とその算定方法には様々なものがありますが、その中から分かりやすく使用頻度が高いものをご紹介します。
回収期間法
回収期間法とは、投資額の回収期間を求め、それが満足しうる水準であるか否かによって投資案を評価する方法です。回収期間が短いほど高い順位が与えられることになります。
回収期間とは、投資によって得られるキャッシュフローによって、投資額を回収するのに要する期間を指します。
●回収期間=投資額÷年々のキャッシュフロー ※投資額6,000万円、年々のキャッシュフローが毎年2,500万円の場合 6,000万円÷2,500万円=2.4年 |
長所は、回収期間が短い投資案を有利とするため安全性が担保されることにあります。回収期間が長い投資は、途中で外部環境変化の影響を受けるなど不確実要素が高まりますが、回収期間が短い投資案はそのリスクが低く、投資の安全度が高いと判断されます。
反面、短所として回収期間後の収益性を無視しているという側面があります。設備投資によってキャッシュフローを得られる年数は設備の経済的耐用年数を軸に決められます。したがって、回収期間後も設備が産出できる経済的効果があるわけですが、回収期間法はそれを考慮していません。
正味現在価値法(NPV)
正味現在価値法(NPV)は、投資からもたらされる年々のキャッシュフローの正味現在価値から、投資額を差し引くことによって算定する方法です。将来得られるキャッシュフローの時間価値を考慮した計算方法です。
年々キャッシュフローの現在価値の計算方法は次のように計算します(資本コストは5%と仮定)。※資本コストとは資金調達にかかるコストのことで、金利や株式調達にかかるコスト。
例えば投資後2年目のキャッシュフローが2,000万円、資本コストが5%であった場合、「2年後の2,000万円の今現在の価値は1,814万円である」、ということとなります。これを経済耐用年数分計算し、合算します(例では8,216.3万円)。この将来の年々キャッシュフローの現在価値をイメージ化したものが下図です。
そして、現在価値合計から現在の投資額を引いた金額が正味現在価値となります。
●正味現在価値(NPV)=現在価値合計―投資額 ※上図例の現在価値8,216.3万円、投資額8,000万円の場合 8,216.3万円-8,000万円=216.3万円(正味現在価値NPV) |
正味現在価値(NPV)がプラスであれば、その投資案は採用となります。また複数の投資案の優先順位を付ける際は、正味現在価値が大きい投資案が採用されます。
長所は資本コストを考慮しているため、実態に即したキャッシュフローに基づいて判断ができる点にあります。
短所は、絶対額で評価を行うため投資効率が分からないという点です。例えば、
・得られるキャッシュフローが10億円、投資額が9.9億円の投資案A ・得られるキャッシュフローが500万円、投資額が200万円の投資案B |
収益の大きさなら投資案Aの方が大きいですが、投資効率としては非常に悪いものとなります。少し予測が外れればキャッシュフローの現在価値が投資額よりも小さくなる可能性もありリスクが高くなります。
収益性指数
このような投資効率を図る指数として、収益性指数があります。投資により得られるキャッシュフローの現在価値合計を投資額で割って比率を計算し、この値が1より大きければ投資を実行し、1より小さければ実行しないという評価方法です。先ほどのNPV法で投資判断を行う際は、同時に収益性指数を計算することをお勧めします。
●収益性指数=年々のキャッシュフローの現在価値÷投資額 上記例の投資案A=10億÷9.9億=1.01 上記例の投資案B=500万÷200万=2.5 |
投資案Bの方が投資に対する投資効率は高いという判断になります。
内部利益率法(IRR)
内部利益率とは、年々のキャッシュフローの現在価値と投資額が等しくなる資本コストのことです。内部利益率と資本コストを比較し、内部利益率が資本コストを上回っていれば、投資に値すると判断します。
計算方法はやや複雑なため、概念だけシンプルにお伝えします。
現金を株主や金融機関から調達しようとすると、金利や配当を支払うことになります。この要求される金利や配当が資本コスト(おカネを調達するのに必要なコスト)です。
今回6,000万円を調達し5年間経済効果が見込める設備投資することを考えます。資本コストは年5%。元金は5年後一括返済するという条件設定です。すると5年間で支払う支払う利息は約1,658万円となります。
つまり現金6,000万円を調達して設備投資を行うには、5年後に最低でも6,000万円+1,658万円=7,658万円のキャッシュフローがなければならないという計算になります。
もし得られるキャッシュフローが7,658万円なら、この投資の内部利益率は5%であり、内部利益率と資本コストとイコールになります。得られるキャッシュフローがそれ以上であれば、内部利益率は資本コストより大きくなっていきます。
この内部利益率が資本コストより大きい投資案が採用される、という判断を行うのが内部利益率法です。
まとめ
以上、投資案に対する判断基準として回収期間や収益性の算定方法と長所・短所をお伝えしました。
高額となる設備投資は資金面だけでなく、企業の経営資源や企業活動そのものを長期にわたって拘束し、収益構造に影響を与え続けますので、様々な角度から投資案の価値を判定していくことが求められます。
※関連記事:設備投資の経営判断①キャッシュフローと投資額の計算方法
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