テレワークの促進や多様な働き方への対応から、ジョブ型雇用を採用する企業が大手中心に増加しています。ジョブ型雇用は、その規定している専門分野についてスキルアップが図りやすいこと、そして職務規定に定められた職務を果たせれば多様な働き方を実現できるメリットがあります。責任範囲が明確化されることから、評価の公平性が高いというメリットもあるでしょう。
これと同様の効果をもたらすものに部門別採算制度があります。これも部門の役割責任と達成目標を明確にし、部門内における責任明確化、特定分野のスキルアップ、目標達成インセンティブを与えるものです。
しかし反面、これらの制度に過度に偏重すると、企業経営全体に対するデメリットも生じます。
これは多くの経営者、管理職が実感していることだと思います。そしてなぜ部門間連携が悪くなることが大きな問題なのか、そしてなぜ部門間連携が悪くなるのかについて、もう少し踏み込んで考えてみたいと思います。
ジョブ型雇用や部門別採算制度は、運用方法を間違うと部分最適に陥る可能性があります。そして「顧客の要求に応える」という企業目的を忘れ、部分最適活動が重視されるリスクがあります。
企業は限られたリソースを有効活用し、ターゲット顧客に対する価値提供を行っています。企業活動において、顧客への価値創出に無関係な活動は一切ありません。直接利益を生まない間接部門も、利益を生む直接部門を後方支援しています。
別の言い方をすれば、顧客への提供価値は企業活動全体の総和であるということです。調達、加工/生産、販売/マーケティング、出荷/集荷、アフターサービスといった一連の流れ全てが顧客価値を生み出します。企業内におけるこれらの個別活動の連鎖をバリューチェーンといいます。
バリューチェーン上のどの活動に企業の強みがあるかは経営戦略によって変わります。これは同業界の企業同士であっても違ってきます。しかしどの企業にとっても必ず重要になる要素は、活動間の連絡/連携がスムーズに運ぶかどうかということです。なぜなら顧客が受け取る価値は、企業内のバリューチェーンを経て生み出されたアウトプットだからです。
しかしバリューチェーン全体ではなく個別活動が優先され、価値連鎖が分断され、顧客への要求に応えられないケースが多く見受けられます。
例えばある製造小売業の例。新規顧客獲得のため、直販店での催事用に商品群Aを通常時以上に展示する必要があります。販売部門は催事用のイベントや商談スケジュールを組んでいます。しかし製造部門は自部門に課せられた商品ラインの生産に今まで通りの時間を割いています。販売部門では必要な商品群Aがいつ展示できるのか、あいまいな情報しかもらえません。そうこうしているうちに製造部にも経営幹部から商品群Bの生産増強指示が飛びます。あわてて商品群Aを作るために資材部は材料を入荷し、製造部も猛スピードで生産。さらに出荷時に部門間トラブルが発生し、何とか体裁だけは繕ったものの、店頭展示物に品質不良が発生し、顧客への売れ行きはイマイチ。その後倉庫を見てみると、商品群Aのいくつかのアイテムに仕掛在庫があったことが発覚(催事以前から作っていた仕掛在庫)。。
催事の度に毎回このような混乱が発生します。これが職務規定や部門別管理の行き過ぎでバリューチェーンが分断されているケースです。結果的に顧客に満足いく価値を提供出来ず、収益性も下がるという結果になります。
このケースの問題は次の通りです。
これらの問題を解決するには、2つのことに取り組む必要があります。
ⅰ)仕事全体の流れを明確にする |
この催事は内容は不定時かつ内容は毎回変わるものの、確実に毎年実施されている性格のものでした。また顧客へのインパクトもそれなりのものです。たとえ通常業務ではなくとも、このようなジョブは顧客価値に影響を与えるものとして捉えるべきです。
社内における多くの規定が「特定の部門内・ジョブ」に限定されたものになっています。これは平時通常の業務を回すには最適化された規定と言えます。しかし自社が定めた事業領域内にいる顧客の要求は、たとえターゲティング精度が高く顧客属性が似通っていたとしても、千差万別です。顧客に応えようとすれば必ずイレギュラーや通常規定していない問題は発生します。これに応えて顧客満足度を高めていくには、顧客への提供価値を起点とした部門横断ジョブとして捉え、横横断の業務フロー規定を作ることが有効です。しかしこれはそれほど難しいものではなく、
ⅰ)仕事全体の流れを明確にする |
というポイントを抑えたうえで業務フロー規定を定めれば、多くの場合で解決します。
市場環境が目まぐるしく変わるということは、顧客の要求の変遷や価値観の多様化を意味し、「顧客に価値をもたらすイレギュラー業務」が多々発生することを意味します。これを「現場が混乱する」「そのようなイレギュラー要求に我が社では対応しない」とするのか、それとも「イレギュラーでも当社顧客への提供価値の増大に繋がる」と考えて社内の業務フロー規定を磨き上げていくのか・・・経営判断が問われる部分です。
以上、職務規定や部門責任は偏重しすぎると市場変化に対する機動力を失い、突発的イレギュラー要求に応えにくくなる、これを解決するには顧客要求に応えるためのジョブをバリューチェーン全体に罹るものとして捉え、そのジョブごとに業務フロー規定を定めることをお伝えしました。