損益分岐点の意味するものと、改善の方向性
サマリー
- 損益分岐点売上高とは、その年の売上から費用を差し引いた金額が0円、すなわち収支トントンとなる売上高のことです。
- 損益分岐点とは、企業が直面する環境変化という不可抗力に対する企業の中長期的な耐性を表します。
- 損益分岐点売上高は「固定費/限界利益率」で計算されます。
- 損益分岐点売上高を引き下げるためには、「固定費を削減する」「限界利益率を高める(=変動費率を下げる)」ことで実現されます。
損益分岐点売上高とは
損益分岐点売上高とは、売上から費用を差し引いた金額が0円、収支トントンとなる売上高のことです。
また、実際の売上高に対する損益分岐点売上高の割合を「損益分岐点比率」と言います。
ある年の売上、費用、利益が以下の通りだったとします。
売上高 | 100 |
変動費 | 50 |
固定費 | 30 |
利益 | 20 |
この場合の損益分岐点売上高がいくらになるかというと、費用の総額が80となりますので、損益分岐点売上高は80となります。
また、損益分岐点比率は、80/100=80%となります。
したがって損益分岐点売上高や損益分岐点比率が下がると利益が大きく出るということになりますので、低ければ低いほど望ましいと指標と言えます。
業績は企業内部の変化や外部環境の変化により常に変動するリスクがあります。特に外部環境の変化、例えば政治情勢や経済情勢、技術革新の影響については、業績への影響は大変大きいものの企業側でコントロールすることが難しく、短期的な企業努力では対応することが難しい領域です。
そのような環境変化という不可抗力により売上高が減少した場合でも、損益分岐点売上高(比率)が十分低い水準にある場合、企業は利益を出し続けることができ、中長期的視点での環境変化への対応が可能となっていきます。
つまり、損益分岐点売上高(比率)とは、環境変化という不可抗力に対する企業の耐性を表しているということができます。
損益分岐点売上高の計算方法
損益分岐点売上高の計算方法は次のようになります。
これだけですと分かりにくいですので、この計算式に至るロジックを簡単にご説明します。
損益分岐点売上高を計算するには
- 売上高
- 限界利益(率)
- 変動費(率)
- 固定費
がいくらなのかを知る必要があります。
まず損益分岐点売上高を計算するには、費用を変動費と固定費に分解する必要があります。損益計算書の費用としては「売上原価」「販売費および一般管理費」「営業外費用」「特別損失」がありますが、それぞれの内訳の中には、売上に連動して発生する「変動費」と売上に関係なく発生する「固定費」が入り混じっています。
変動費とは、例えば小売業では商品仕入額(売上原価)や運送費(販管費)などが該当します。これらは商品が1個販売されるたびに発生する変動的な性格を持つ費用です。
逆に人件費や地代家賃(販管費)、支払利息(営業外費用)などは、売上とは関係なく発生する費用です。これらは固定的な費用発生となる固定費に分類されます。
※変動費、固定費についての詳しい説明はこちらもご参照ください→費用を変動費と固定費に分けるメリット
そして、売上高から変動費を差し引いた利益のことを「限界利益」といい、また売上高に対する限界利益の割合を「限界利益率」といいます。つまり、限界利益と変動費は売上に対して逆の数値となっており、「限界利益率が上がる」ということは「変動費率が下がる」ことと同義となります。
・限界利益=売上高-変動費
・限界利益率=限界利益/売上高
非常に大雑把に申し上げれば、限界利益とは「粗利」に近い性質のものです。なお、損益分岐点分析を行うにあたり、限界利益や変動費は「率」を用いて計算に使用します。
なぜなら、限界利益は売上高に連動する利益であり売上や費用の増減に連動して額が変わるからです。次の一次関数は、売上高と変動費の関係を表した図です(固定費は考慮していない)。一次関数の傾き部分が限界利益率と変動費率です。販売数量に応じて限界利益及び変動費は変動していきますので、額面そのものよりも、その比率がどう増減しているのか、を把握するほうが重要となります。
※限界利益についての詳しい説明はこちらもご参照ください→売上や変動費の増減に連動する利益「限界利益」とは?
損益分岐点売上高は、売上と費用がトントンとなる売上高のことですので、単純にいえば次のように計算できます。
・売上高=変動費+固定費
これをもう少し展開すると、
・損益分岐点売上高-変動費-固定費=0
・限界利益-固定費=0
・損益分岐点売上高×限界利益率-固定費=0
・損益分岐点売上高×限界利益率=固定費
この算式の限界利益率を右辺に持っていくと、
・損益分岐点売上高=固定費/限界利益率
となります。
損益分岐点売上高を引き下げるには
損益分岐点売上高を引き下げるためには、
- 固定費を削減する
- 変動費率を下げる(限界利益率を上げる)
ことで実現されます。次に損益分岐点、売上、変動費、固定費の関係を表したグラフを紹介します。
赤点の部分、すなわち変動費と固定費を合計した金額と売上高が交わっている点が損益分岐点売上高です。損益分岐点売上高(比率)を下げるには、この赤点をグラフの下の方へ引き下げていくということです。
固定費を削減する
固定費を削減すると、このグラフがどのように変わるかをご説明します。上図と見比べてみると、固定費線が次のように引き下げられた結果、損益分岐点売上高が下方に押し下げられることが分かります。
変動費率を下げる(限界利益率を上げる)
変動比率を下げるということは、変動費線の傾きが変わるということです。変動費率が下がることにより変動費率の傾きが鋭角になり、その結果損益分岐点比率が押し下げられることが分かります。
変動費率を下げる(限界利益率を上げる)には4つの方法があります。
- 売価を上げる
- 外部購入価格を下げる
- ロスを減らす
- プロダクトミックスを変える
1の売価を上げる、とは、販売単価を上げることによって相対的に変動費が下がり、限界利益率が上がることを意味します。
2の外部購入価格を下げるとは、仕入れ価格を下げることで変動費率が下がることを意味します。
3のロスを減らすとは、歩留まりを良くすることで製品1個当たりの材料費等の変動費が下がることを意味します。
4のプロダクトミックスを変えるとは、変動費の低い(限界利益の高い)製品の生産量や販売量を増やすことで、取扱い商品全体で限界利益を改善する取り組みです。
限界利益率を高める(変動費を下げる)4つの方法については、こちらの記事もご参照ください→売上や変動費の増減に連動する利益「限界利益」とは?その高め方
まとめ
損益分岐点売上高とは、その年の売上から費用を差し引いた金額が0円、すなわち収支トントンとなる売上高のことです。
損益分岐点売上高は「固定費/限界利益率」で計算されます。
損益分岐点売上高を引き下げるためには、「固定費を削減する」「限界利益率を高める(=変動費率を下げる)」ことで実現されます。
損益分岐点は環境変化という不可抗力に対する企業の耐性を表します。企業が中長期的に発展していくためにも、ぜひ損益分岐点売上高(比率)の推移は常に確認し、具体的な対策を考えることが必要かと思います。
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