※2020/3/6 記事投稿
※2020/8/19 加筆・修正
売上は「販売数量×販売単価」に分解されます。
売上増減を分析する基本的な作法は、売上を「販売数量」と「販売単価」に分解し、それぞれの時系列推移を明らかにすることから始まります。これを売上増減要因分析といいます。
売上に影響を与える要因は数多くあります。売上を「要素」に分解し、売上に影響を与えている要因を特定すると、改善ポイントの絞り込みが可能となります。その結果、有限の経営資源(時間・ヒト・能力)を有効活用と、施策の成功確率向上が期待できます。
例えば売上に影響を与える活動が10あるとしましょう。もし売上を分解せずに売上向上を図ろうとすると、10の活動をしらみつぶしに検証せねばならず、ポイントを絞り込むことができません。その結果本来売上に影響を与えていた要因を見過ごしたり、中途半端な改善活動となるため、結果が出しにくくなります。
それに対し、売上を「数量要因」と「単価要因」に分解して推移を数値で把握すると、要因の絞り込みが可能となります。
もし「数量要因」はそれほど変化がなく「単価要因」が減少し続けているのであれば、「単価」に影響を与える活動に絞って改善を検討すればよいので、成功確率が高まります。
例えば、数量要因がプラスだが単価要因はマイナスということも起こり得ます。この場合、単価要因がプラス若しくは横ばいであれば、更なる売上増が見込めることになります。最終的な売上高に対して、数量要因と単価要因が具体的にいくらの影響を与えているかを把握する事で、その後の販売活動への精度の高い意思決定が可能となります。
※参考記事:売上分解式の作り方と活かし方
売上増減要因のパターンは以下の4つがあります。
数量(増)・単価(増)⇒売上増加 |
数量(増)・単価(減)⇒売上増加or減少 |
数量(減)・単価(増)⇒売上増加or減少 |
数量(減)・単価(減)⇒売上減少 |
売上増減分析は、前年と当年の販売数量及び販売単価を出したうえで、次のような計算で算出します。
【計算式】 ・(当年販売数量-前年販売数量)×前年販売単価=販売数量要因増減額 ・(当年販売単価-前年販売単価)×当年販売数量=販売単価要因増減額 |
では事例を用いて売上増減要因分析を行ってみます。
この事例を確認してみると、17年度は16年度に比べて売上が下がりましたが、その要因としては単価下落要因が数量要因よりインパクトが大きいことが分かります。
また、18年度は売上高は前年比で上昇しましたが、単価要因が売上の引き下げ要因となっていることが分かります。
数量と単価はトレードオフの関係となりがちですが、このような分析結果から、平均単価をいくら上昇させれば売上がいくら増えるのかが計算できます。また、販売活動の現場で実現可能性のある単価上昇額を設定することで、現場でどれくらい頑張ればどの程度売上に反映されるのかが明らかとなり、経営目標と現場の目標が繋がります。
売上増減要因分析をした際に注意すべき点があります。それは、「数量要因減少・単価要因増加⇒売上減少」している時の対応です。
気持ちとしては向上している販売単価を少し下げて、販売数量増加を狙えば売上が増加するのではないか?と考えるところですが、これをやると1つ別の問題が生まれます。
それは損益分岐点売上高比率が悪化する可能性があることです。
販売単価を引き下げた時、粗利益率(限界利益率)が低下すると損益分岐点比率の悪化に繋がります。これは、外部環境の大きな変化で売上高が大きく落ち込んだ時に、赤字に転落しやすい収益構造になることを意味します。
※参考記事1:損益分岐点の意味するものと、改善の方向性
※参考記事2:3つの利益増減要因と、それぞれが利益に与えたインパクトの大きさを把握する方法
もちろん、経営判断として薄利多売を指向すること自体は決して間違っていませんが、その場合は仕入れ価格等の引き下げによる粗利益率の低下防止や、固定費引き下げを同時に検討するのが望ましいです。
しかし中小企業の場合、販売数量の拡大を行うとしても、規模の経済を発揮することは大手企業に比べ難しいとされています。
売上増減要因で販売単価要因がプラスに働いている場合は、その商品やサービスに差別化された強みがある可能性が考えられます。であれば、逆に更に商品やサービスの価値を高め、より高い単価での販売を狙う、という戦略も検討してみるのもよいのと考えられます。