3つの利益増減要因と、それぞれが利益に与えたインパクトの大きさを把握する方法
※2020/3/5 記事投稿
※2020/8/21 加筆・修正
サマリー
- 利益増減要因は「売上高増減」「粗利益率増減」「固定費増減」の3つのいずれかとなります。
- 利益を改善するには、3つの利益増減要因が利益にどれだけのインパクトを与えているかを分析し、最もインパクトの大きい要因を改善していくことが効果的です。損益計算書で見える売上高や費用などの大きさだけで判断すると、真に利益に影響を与えている要因を見誤ることがあります。
3つの利益増減要因
利益に影響を与える要因は大きく分けて、
- 売上高
- 変動費(売上増減に連動して増減する費用)
- 粗利益(売上から変動費を引いた利益のことで、厳密には限界利益)
- 固定費(売上に関係なく発生する費用)
の4つがあります。このうち変動費と粗利益は表裏一体ですから、実質的に利益に影響を与えるファクターは、
- 売上高
- 粗利益
- 固定費
の3つしかないことになります。
また粗利益は売上高増減に連動して増減する利益ですので、分析上は「額面」で捉えるよりも「率」で捉えることが望ましいです。なぜなら粗利益額は売上増減により変動し、売上が下がれば当然連動して下がることになるため、額面で分析をしてもあまり意味がありません。むしろ、売上高に対しどれぐらい利幅が増減したかを示す「粗利率」を捉える方が、利益増減要因を的確にとらえることが可能となります。
つまり企業の利益を増加させるためには、
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という3つの領域から優先順位を設定し、改善に取り組むことが望ましいです。
では収益構造の改善を検討するうえで、これら3つの増減要因のうち、どの要因の改善から取り組むべきなのか・・それを明らかにするのが利益増減要因分析です。利益増減要因分析を行うことで「売上高の向上」「粗利益率の向上」「固定費削減」のうち、どこから着手すればもっとも利益増加に効果があるのか分かるようになります。
※当記事内で表現している「粗利益率」は、厳密には「限界利益率」を指しますが、経営判断を行う経営層・管理職層にとってイメージしやすく解説するため、当記事内では「粗利益率」と表記統一しています。限界利益率についての詳しい解説は、下記の記事をご参照ください。 |
利益増減要因分析の例
例えば、以下のような変動損益計算書があったとします。
売上高が11減(マイナス要因)、変動費は2減(プラス要因)、粗利益は9減(マイナス要因)、固定費は5減(プラス要因)となっており、最終的に当年は前年に比べ利益が4減少しています。
これだけみると、売上高の減少が大きくインパクトを与えているように見ます。さらに変動費に関しては前年より減っているため改善しているように見えます。このことから、売上高の減少が利益減少に大きな影響を与えている、と判断してしまい、販売数量の増加を第一優先に上げてしまうことがあります。
ところで、変動費や粗利益は売上高と連動します。したがって収益構造を理解する上では、上述の通り変動費と粗利益は「売り上げに対する割合=粗利益率」で把握する事が重要です。
この例の粗利益率は次のようになります。
粗利益は前年比で1.7%減少していることがわかります。つまり利益減少要因は売上高だけでなく、粗利益率にも問題があることが分かりました。
しかし率はあくまで割合であり額面を表しているわけではありません。本当に知りたいのは、減少した粗利益率1.7%が利益額のいくら分に相当するのかということです。それを表したのが次の図です。計算方法は当記事の最後で紹介しておりますのでご参照ください。
粗利益率の低下が利益減少に与えた額面は4.7百万円ということが分かりました。併せて、売上高減少分が利益減少に与えた額面は4.3百万円です。固定費は前年比で500万円の削減により、経常利益へのプラス要因となっています。
分析の解釈と対策の方向性
変動損益計算書の段階では「売上高」の減少が大きく見えていましたが、利益減少に最も大きなインパクトを与えているのは「粗利益率」である、ということが分かります。
そうすると、利益改善に取り組むべき優先順位はまず粗利益率の改善なのではないか?ということが考えられます。もし利益増減要因分析をせず、損益計算書に現れる額面のみで判断すると、売上を11百万円上げるという意思決定をする可能性があります。
しかし仮に11百万円売上を上げるという目標が到達可能であったとしても、値引きによる売り上げ拡大を狙うと粗利益率が更に低下することとなり、利益は前年水準まで戻りません。ここに落とし穴があります。つまり「増収減益」に陥る可能性が高まるということです。
また、実現可能性の問題もあります。
①売上を頑張って11百万円上げる ②売上高を4.3百万円改善し、粗利益率を1.7%改善する |
であればどちらが実現可能性が高いかを考えると、②の方が打てる施策が増えますし、要因それぞれの改善幅が小さいため、実現できる可能性が高いのではないかと考えられます。
固定費の考え方
ここで次のような疑問が湧くかもしれません。
「粗利益率を1.7%改善し、売上を4.3百万円増やすだけでは、経常利益額は元の水準に戻らないのでは?」
これには固定費が関係しています。当年において固定費額が70から65に減少しているため、この固定費を次年も維持できれば、粗利を1.7%改善+売上を4.3百万円増やすだけで経常利益額は前年水準に戻せるのです。
逆の考え方をすれば、固定費を65百万円までと予め決めたうえで、目標粗利益率・目標売上高を逆算して求めることがポイントとなります。このようにあらかじめ設定された固定費を許容固定費といいます。
※許容固定費の考え方は利益創出において重要なポイントとなりますので、次の記事で紹介しています。⇒「許容固定費」の考え方が利益を生み出す
※利益計画の立て方はこちら⇒損益計画の策定手順
また、売上高が減っても利益が出るということは損益分岐点売上高比率が低下し、収益構造が強固なものになることを意味します。損益分岐点比率は、固定費を下げて粗利益率を高めることで改善(つまり損益分岐点比率の低下)します。この事例では固定費の削減が進んでいるため、粗利益率を改善すればより強固な収益構造をつくることができます。
※損益分岐点比率はこちらをご参照ください:損益分岐点の意味するものと、改善の方向性
このように利益増減要因分析を行うと、利益に最も大きな影響を与える要因を特定でき、取り組みの改善効果が期待できます。
利益増減要因分析 計算方法
利益増減要因分析の計算方法は次の通りです。
①売上高増減インパクト=(当年売上高-前年売上高)×前年粗利益率 ②粗利益率増減インパクト=(当年粗利益率-前年粗利益率)×当年売上高 ③固定費増減インパクト=前年固定費-当年固定費 ④経常利益増減額=①+②+③ |
当記事でご紹介した事例の計算式は次のとおりです。
売上高増減インパクト=(273-284)×38.7%≒▲4.3百万円 粗利益率増減インパクト=(37.0%-38.7%)×273≒▲4.7百万円 固定費増減インパクト=70-65=5百万円 経常利益増減額=▲4.3百万円+▲4.7百万円+5百万円=▲4百万円 |
まとめ
- 利益増減要因は「売上高増減」「粗利益率増減」「固定費増減」の3つのいずれかとなります。
- 利益を改善するには、3つの利益増減要因が利益にどれだけのインパクトを与えているかを分析し、最もインパクトの大きい要因を改善していくことが効果的です。損益計算書で見える売上高や費用などの大きさだけで判断すると、真に利益に影響を与えている要因を見誤ることがあります。
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