アンゾフの成長マトリックス
サマリー
- アンゾフの成長マトリックスとは、企業の成長の方向性を定め、経営資源を効果的に配分する戦略を考えるフレームワークです。
- 実務では、新事業や新企画のアイデア創出で使うことができる便利なフレームワークです。
アンゾフの成長マトリックスとは
企業の成長の方向性を定めて、経営資源を効果的に配分する
アンゾフの成長マトリックスとは、経営学者のイゴール・アンゾフ氏が著書『企業戦略論』で提唱した理論です。
企業は、業界全体の成長性や自社の市場シェアなど、環境変化に対応しながら常に成長の方向を模索します。この成長の方向性を定め、経営資源を効果的に配分する意思決定に用いられるフレームワークです。
縦軸に「市場の既存・新規」軸をとり、横軸に「商品の既存・新規」軸をとります。それぞれの象限を、既存市場×既存商品(市場浸透戦略)、既存市場×新商品(新商品開発戦略)、新市場×既存商品(新市場開拓戦略)、新市場×新商品(多角化戦略)に分類します。
市場浸透戦略
既存の市場に対して既存商品を投入し、市場内での売上やシェアを高める戦略です。
例えば、昔は歯磨きは1日一回という習慣が普通でした。しかしその後朝夜2回、そして朝昼夜3回というように習慣が変わっていきました。この習慣は、大手日用品メーカーによるプロモーションや、携帯用歯磨きセットを投入するなどして、歯磨きや歯磨き粉の使用頻度を高め、市場の拡大浸透を図った結果できたものです。
この例のように既存市場のパイを拡大したり、既存商品の使用頻度や買い上げ点数、単価を高めることで、既存市場での売上やシェアを拡大するのが市場浸透戦略です。
新商品開発戦略
既存の市場に新しい商品を投入する戦略です。例えばビール業界で発泡酒や第3ビールを開発して既存のアルコール市場に投入したり、ビールに合うおつまみを開発して市場に投入するなどです。
既存市場での利用シーンをイメージし、より機能の充実した製品開発や、使用シーンで既存顧客に更なるベネフィットを提供する新たな商品やサービスを開発し、売り上げ拡大を図る戦略です。
新市場開拓戦略
既存商品を新しい市場に投入し、シナジー効果やスケールメリットなどを追及する戦略です。シナジー効果とは、経営資源を共通利用したり結合することで、総和以上の力を得る効果のことです。
新市場にはいくつかの考え方があります。代表的なのは「地理的」視点です。例えば九州のみで発売していた飲料を関東でも販売する、といったケースです。
もう1つ代表的かつ重要なのは「顧客」視点です。新たな顧客層に対して既存商品を展開していくことです。例えば青年向けのトレーニングジムサービスを、高齢者に向けて展開したり、日中ジムに来られない忙しいビジネスマン向けに24時間利用可能なジムを展開するなどです。
多角化戦略
新たな市場に新たな商品を投入し、新しい成長機会を獲得する戦略です。成長の方向性としては最も新規性があり可能性に満ちていますが、自社の経営資源を活かせない可能性もあり、一般的に成功確率は低いと言われています。ハイリスクハイリターンを求める戦略と言えます。
アンゾフの成長マトリックスの活用方法
ここまでアンゾフの成長マトリックスの概要を紹介してきましたが、これだけでは具体的にどのように活用すればよいかがイメージしにくいと思います。ここからは、このフレームワークをビジネスでどのように活用できるかを紹介します。
このフレームワークは、「新規事業」や「新たな企画」のアイデア創出段階で大きな威力を発揮します。次の図が、アンゾフの成長マトリックスを利用した新規事業アイデア創出の例です。
縦軸の「市場」をもう少し分解すると、
・顧客
・提供場所(利便性)
・提供時間やタイミング(顧客が必要とするタイミング)
に分けることが出来ます。
横軸の商品を分解すると、
・商品やサービス
・提供方法
・価格
に分けることが出来ます。
まず左上象限にいま展開している事業を書きます。上記に挙げたそれぞれの要素について詳しく書き出します。この例ではフィットネスを営む事業者の例を記載しています。主に主婦層に対して中価格帯のフィットネスを、都心駅チカ店舗で営んでいる事業者の例です。
その次に、市場と商品の分解要素のうち「どれか1つの要素を変えてみたらどうなるか?」を考えます。上図では変えた要素を青色で表記しています。この例では①は市場の「顧客」を主婦からビジネスマンへ、②は商品の「商品・サービス」を身体機能維持プログラムに変えたパターンを考えています。
そして、1つの要素を変えたら、次に他の要素がそれに付随してどう変わるかを考えます。付随して変わる項目は緑色で表記しています。
このようなアンゾフの成長マトリックスを用いることで、具体的な新規事業のアイデアの大元を考えることが出来ます。
①市場の「顧客」を変える
上図①は市場の「顧客」を変えた例です。既存事業ではメイン顧客が主婦でしたが、これを「ビジネスマン」に変えたらどうなるでしょうか?
ビジネスマンに変わったことにより、これまで提供方法は販売促進としてはWeb広告や商圏内へのチラシ配布などがメインでしたが、ビジネスマンにリーチするには、販売促進は電車の中づり広告や法人営業、他にもビジネス系のサイトでの紹介など効果的ではないか、と仮説が立てられます。さらに提供タイミングとしては仕事帰りや増加するフリーランスにアピールできる24時間制や、予約フリーなどが考えられます。そうするとサービス提供方法も、セルフでマシンを使用して頂くためにマニュアルを整備したり、いつでも来店してもらえるよう受付を自動化するなどのアイデアも膨らみます。
まとめると、「忙しいビジネスマン向けのフィットネスを24時間予約不要でいつでも好きな時に使うことができる」ことをコンセプトとした新事業のアイデアが生まれます。
②商品の「商品やサービス」を変える
②の例は、商品サービスをフィットネスから、それと親和性がありノウハウの応用ができる「身体機能維持サービス」に変えてみたらどうなるか、という例です。そうすると顧客ターゲットとしては高齢者でさらに人数が増加している要支援認定者はチャンスがありそうです。そうすると商品サービスとして、介護事業者の指定許可が必要になります。提供方法としてはグループ形態は今のノウハウを活かし、さらに介護福祉士による他の介護サービスを合わせて提供、販売促進としては高齢者にリーチする市の広報活用や、居宅支援事業者との関係強化などが考えられます。
まとめると、「身体機能維持に強い関心をしめす要支援高齢者に対して、身体機能維持を強力にアピールした介護事業」というコンセプトになります。
まとめ
これら2つのアイデアが実際に実現できるかどうか、収益に繋がるかどうかは、経営資源や市場環境の調査分析が必要です。しかし、このマトリックスを使うことで、既存事業を出発点としたさまざまなアイデアの原石を生み出し、整理することが出来ます。様々なパターンを試行錯誤することで、思いがけない新事業アイデアが生まれることもあります。また、経営者だけでなく、管理職や現場の社員とも一緒になって取り組むと、社内から新事業のアイデアが出てくる風土を醸成することにも繋がります。
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