インターナルマーケティング施策の立案方法
サマリー
- インターナルマーケティングとは、自社の従業員を顧客として捉え、従業員のロイヤルティを高めることにより顧客ロイヤルティを高めるという、サービスマーケティングの肝となる要素です。
- インターナルマーケティングを通じて、従業員満足度とロイヤルティが高まります。その結果顧客にサービスを提供する従業員のモチベーションと能力が高まり、社員から顧客へのサービスの価値・質の向上につながります。
- インターナルマーケティングを策定する際は、顧客へのマーケティング同様、マーケティングミックス4P(7P)のフレームワークを活用すると、効果的で抜け漏れない施策を導くことが出来ます。
インターナルマーケティングとは
インターナルマーケティングは、エクスターナルマーケティング、インタラクティブマーケティングと並び、サービスマーケティングを構成する柱の一つとして位置付けられます。
・サービスマーケティング体系図
インターナルマーケティングとは従業員を顧客として捉え、「従業員満足度・従業員ロイヤルティ」を高めることにより、「顧客満足度・顧客ロイヤルティ」を高めるという、サービスマーケティング全体の肝となる要素です。
ロイヤルティとは「信頼」や「愛着」のことを表します。従って、従業員ロイヤルティとは従業員から企業への信頼・愛着という意味であり、顧客ロイヤルティとは顧客から企業(あるいは従業員)への信頼・愛着という意味です。
インターナルマーケティングは従業員をマーケティングの対象として、従業員のニーズ(仕事の有意義感、評価、成長、報酬etc..)を捉え、モチベーションと能力を高める社内向けの施策を講じることで、従業員ロイヤルティを高めます。
市場が成熟し、製品の機能価値そのものによる差別化が難しくなっている昨今、モノを販売する企業にとっても、コト消費を意識したマーケティング施策は重要性を増しています。そしてコト消費嗜好に対応するには、社員から顧客への働きかけによる顧客体験価値の向上も大切な取り組みとなります。
例えば、お部屋のトータルコーディネートを提供しているHello Interiorのような、サービス提供者がコンシェルジュや専門家として顧客の課題解決に向けた販売スタイルなどはその例と言えるでしょう。
サービスマーケティング全体像の中で、インターナルマーケティングは従業員に働きかけることで、レバレッジを効かせて顧客満足度・ロイヤルティを高める仕組みと言えます。
インターナルマーケティングを実施するメリット
インターナルマーケティングを通じて、社員満足度とロイヤルティが高まります。その結果社員のモチベーションとスキルが高まり、それが社員から顧客へ提供するサービスの品質質向上につながり、ひいては顧客満足度、顧客ロイヤルティが向上します。
この考え方はサービスプロフィットチェーンの考え方と密接に結びついています。
サービスプロフィットチェーンとは、従業員満足、顧客満足、企業利益の因果関係を示したフレームワークです。従業員満足が顧客満足に繋がり、顧客満足が企業利益に繋がり、企業の利益が従業員満足に繋がるという関係性を示したものです。
・サービスプロフィットチェーンの体系図
サービスの価値が直接的に顧客に伝わる瞬間は、サービス提供者が担うことになります。その瞬間は、当該社員以外は基本的に立ち会えないことが多いものです。
もちろんOJTなど現場で上司が新人の接客やサービスを監督するなど、サービス提供の瞬間を社員同士が共有することもあるでしょう。しかし、例えば昼時の忙しい飲食店で社員一人一人が顧客とどのように接しているのか、ということを逐次把握する事は難しいことです。
また個別教育や訪問介護などの訪問サービス、リラクゼーションなど、サービス提供現場に顧客と提供社員しかいない、ということは多々あります。
そしてサービスとは目に見えないものであり、モノのように触れることが出来ません。
つまり、サービスという価値提供の本質は、価値提供中の瞬間瞬間は提供者本人と顧客にしか共有されておらず、価値を提供した瞬間それは過去のものとなり、形が残らないというものです。
・サービスの本質
同時性・不可分性 | ・生産と消費が同時に発生、・顧客との共同作業で価値が発生する |
異質性 | ・顧客ごとの個別対応、・品質標準化が難しい |
無形性 | ・形がなく目に見えないもの |
消滅性 | ・保存出来ず提供すると消える |
このようなサービス業の本質を考えると、インターナルマーケティングの重要性がよく分かります。顧客が求める水準以上の満足を、常に提供の瞬間瞬間で同等の水準で提供するには、社員が管理監督なしに、サービス提供時に常に己を律し、自己研鑽を続けていくことが求められます。
したがって、サービス提供者である社員のモチベーションを高め、能力向上を支援し、従業員ロイヤルティを高めていく企業としての取り組みは、顧客満足と利益増大を図るうえで大変重要なものと位置付けられます。
インターナルマーケティングを策定する際の考え方
インターナルマーケティングは、その名の通りマーケティングの1つです。したがって、通常のマーケティング戦略策定手順を意識することも効果的です。以下のような体系で考えると、様々な施策を考えることが出来ます。
ターゲット | 社員の望み(仕事の有意義感、やりがい、評価、成長、報酬etc..) |
商品 | モノやサービスの価値、企業理念 |
価格 | 給与、福利厚生、賞与などの処遇 |
プロモーション | 仕事の与え方、従業員への企業理念や取り組みの浸透、情報共有 |
チャネル(場所) | 職場環境、適材適所 |
要員 | 職務設計、教育、採用 |
インターナルマーケティングの具体的施策例
ご支援させて頂いた事例をご紹介致します。こちらの企業様はある教育事業を営んでおりますが、入会数の減少と退会数の増加に直面しておりました。この原因は(通常の)マーケティングに問題があったこともそうですが、特に退会数に関してはサービス提供者と企業様の関係に問題がありました。
さらに問題が複雑だったのは、サービス提供者は社員ではなく委託先の個人事業主がメインでありました。そのため、社員と会社の関係のように毎日接する環境になく、サービスの品質は受託者任せになり、提供者の意識の差や品質の違いが入会者数に影響を与えていました。
これに対し次のようなインターナルマーケティングの取り組みを行い、受託者の共通目的意識の醸成、成長、モチベーション向上、サービス品質の底上げを図っています。
ターゲット | ・成長意欲のある受託者 |
商品 |
・教育事業理念策定 ・理念を実現する人材像の定義 ・提供サービスの本質的価値の明確化 |
価格 | ・評価と報酬体系の明確化 |
プロモーション |
・月1回会議を単なる報告会の場から、企業・受託者双方の共通認識と問題解決の場とする会議設計と運用 ・定期的な受託者向けの新聞発行 ・受託者との1on1ミーティングの実施 |
チャネル(場所) |
・フロアの4S(整理・整頓・清掃・清潔)の徹底 |
要員 |
・定期的な受託者向けの研修実施 ・教育事業理念と人材像を明確にした採用活動の実施 |
製品のコモディティ化、顧客嗜好の多様化、人手不足といった時代背景を受け、インターナルマーケティングは今後更に重要性を増していくと思います。
インターナルマーケティング構築の考え方や、具体策立案方法など、ぜひご参考にして頂けたら幸いです。
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