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人事戦略とは、事業戦略を主軸に置いた人材マネジメントの方向性を決定することです。
チャンドラーは「組織は戦略に従う」と唱え、アンゾフは「戦略は組織に従う」と唱えました。この相反する考え方はどちらが正解ではなく、お互いに補完しあう関係にあります。
例えば、事業戦略は外部環境の変化に順応するための資源配分を意味しますので、外部環境が目まぐるしく変化し、組織がそれに順応できない場合は「組織は戦略に従う」べきです。
しかし組織には現状に留まろうとする強い組織慣性が働いており、それがしばしば戦略が実行されない原因となります。アンゾフの「戦略は組織に従う」という命題は、立案する戦略が組織の能力や文化での実行可能性の視点を忘れるな、というメッセージだと私は感じています。
このように人事戦略は、事業戦略の実行を支える最も重要な土台作りと言うことができます。
人事戦略が果たす役割は大きく2つあります。
生産性とは投入した資源(インプット)に対する成果(アウトプット)のことで、次のような算式で表されます。
人事戦略におけるインプットとは「人材」です。そのインプットは会計上は人件費として表現されます。これは生産性のうち「労働生産性」という指標で表現されます。
労働生産性についてはこちらの記事をご参照ください。→働き方改革のキーとなる労働生産性
事業戦略を実行できる人材を適正な人件費で確保し、方向付けし、能力を高め、最大限活用することが生産性向上のキーとなります。
事業戦略を実行するには人材1人1人が最大限能力を発揮することが不可欠です。社員が事業戦略を自らのこととして捉え、積極的に事業参画したいと感じ、全社一丸となって目標に邁進することが、戦略達成最大のポイントです。
事業戦略を実現できる人材の共感を得て、高いモチベーションで働ける環境や条件を提供することが、事業戦略実行の肝となります。
人事戦略には次の3つの視点があります。これらの視点を持って組織を分析することで、人事戦略を考える際の抜け漏れを防止します。
人事戦略の目的の1つである労働生産性。これを数値としてしっかり把握した上で、戦略達成の先にある事業計画達成に連動する生産性目標を明確にします。こうすることで事業戦略、事業計画、人事戦略の3つ巴が全て有機的にリンクした状態となります。
また、労働生産性の他に「人時生産性」「1人当たり売上高」「総額人件費に対する付加価値額(あるいは労働分配率)」なども生産性を表す指標として用いられます。
ESは組織上のあらゆる要素を反映しています。ESは大きく「仕事満足」「会社満足」に分けられます。
仕事満足は「動機づけ要因」とも呼ばれ、モチベーションの高さに影響します。
会社満足は「衛生要因」とも呼ばれ、不満の程度に影響します。
人材マネジメントには5つの柱があります。「確保」「活用」「「処遇」「代謝」そして「統制」機能です。
主に採用や雇用形態、能力開発、キャリア形成、リテンション(退職防止)、退職など、人材の流入出に関する柱です。
主に人材の職務分掌や配置、異動、目標管理など、人材の活用の仕方に関する柱です。
主に賃金や賞罰、また近年ではワーク・ライフ・バランスなど働きやすい環境づくりなど、人材への報いに関する柱です。
上記の「確保・代謝」「活用」「処遇」を統制する機能です。就業規則などのルール、経営理念や期待する人材像、評価制度や賃金制度、管理職によるマネジメント、要因管理、人件費管理など、人事戦略全体を統制する機能です。
人事戦略は、事業戦略を主軸に置いた人材マネジメントの方向性を決定することです。従って人事戦略はそれ単体で存在するものではなく、経営理念や事業戦略という、会社の存在意義や事業の方向性に依拠します。
そして事業戦略を実行するためにどのような仕事が必要なのかを明らかにします。その職務を遂行する人材はどのような人材なのか、人材像を明確にします。そのような人材が活躍できる風土を作り、人事戦略全体を統制する仕組みが人事制度です。