中小企業の人事制度導入状況

　少し古いデータではありますが、平成14年雇用管理調査によると大企業における人事制度の導入率はほぼ100％、対して中小企業の人事制度導入率は、社員数30～99人の会社で39.4％となっています。社員数30人未満の会社のデータはありませんが、企業規模が小さくなるほど導入率が下がることを鑑みるとそれ以上の低い導入率になっていることが予想されます。

中小企業で人事制度を導入していない理由

　中小企業で人事制度が導入しない理由は次の2点です。
・導入することで業績にどう繋がるか分からない（繋がりが見えにくい
・そもそも自社の規模で人事制度が必要なのかが分からない

導入することで業績にどう繋がるか分からない（繋がりが見えにくい）

　大企業に比べて中小企業は資金面で脆弱なため、毎月のキャッシュフローを稼ぎ続けなければ資金に詰まってしまいます。そのため経営の優先順位が目先の売上・利益・キャッシュ確保に行きがちなため、そこに繋がる効果が分からない（見えにくい）人事制度構築を後手に回す傾向にあります。

そもそも自社の規模で人事制度が必要なのかが分からない

　人事制度を導入していない企業で最も多く聞かれるのがこれです。特に社員数が10～30名規模の会社で多く伺います。これは、
・人事制度を導入することでかえって今の優秀な社員のやる気を下げてしまうのではないか？
・人事制度という大そうなものがなくても経営者の判断で社員を評価できるのでは？
　という理由を上げる方が多いです。

　つまり、導入に対して否定的であるというよりも、導入による効果がよく分からない、というのが導入していない理由になっているものと思われます。

中小企業における人事制度の役割

　大企業における人事制度の目的は、「評価期間における各社員の働きに評点を付け、それを配置転換や昇格、賃金決定、人材育成に活かすこと」が主眼となっています。これを中小企業の特徴に当てはめると、導入する意味をあまりなさない人事制度になる可能性があります。

　まず、配置転換や昇格については先ほど述べた通り、中小企業においては階層も職種もそれほど多くありません。一般社員デスクの隣に課長や部長が座っているくらい組織の大きさは小さいですので、配置転換も昇格も頻繁に起こせるものではなく、そのバリエーションにも限りがあります。
　また賃金決定については中小企業においても大切な目的ですが、大企業のように天井の高い賃金テーブルを用意できるわけではありません。限られたテーブルの中で処遇を決めていく必要があります。
　そして大企業では人事制度と教別に大規模な研修や教育プログラムが用意されているため、人事制度が人材育成に果たす役割は現在の遂行能力を図るという意味合いに留まります。

　一方の中小企業では配置転換や昇格も少ない、賃金にもそれほど大きな差を付けられない、そして大規模な育成プログラムに投資できないということを鑑みると、大企業型の人事制度をそのまま導入しても経営のプラスになる事があまりない、ということになります。

　中小企業において人事制度を導入するのであれば、人事制度の目的を書き換える必要があります。人を評価する・処遇に反映する・モチベーションを上げる、、そのような人事制度が組織の生産性向上に寄与するケースは、大規模な教育研修制度に投資ができる中堅～大企業です。

　一方の中小企業が少ない経営資源で業績を上げ続けるために組織の課題は、「社員の成長を促し、成果を創出できる組織を作る仕組み」です。中小企業の人事制度は、この目的を実現する仕組みになっていなければ導入のメリットがありません。昇格や昇給、賞与決定といった要素は勿論必要ですが、それらは成果を創出できる社員を育てるための手段です。それよりも、成果に直結する重要なスキル・行動の評価と、それに連動した成果に繋がる人材育成の仕組みが制度の一環として盛り込まれていることの方が重要になります。

　社員が早く成長する→成果を出せるようになる→会社の業績やキャッシュフローが良くなる→事業が更に発展する→採用や教育に更なる投資ができる・・・というサイクルを回せる制度が、中小企業に必要な人事制度です。人事制度に限らず仕組み化全般に言えることですが、仕組みを導入する際は一般論を鵜吞みにせず、事業規模の違いという前提を考慮して導入を進めましょう。

まとめ

・中小企業における人事制度の目的は、社員の成長を促し成果を創出できる組織を作ること