顧客への事業コンセプトの浸透度を測定する

先日、訪問サービス業を営むクライアントの社長様から非常に面白い視点でのご相談を頂きました。それは「売り上げや問い合わせ件数といった指標も重要だと思うが、もっと当社の存在価値的なモノ、つまり事業コンセプトが顧客へどの程度浸透したか、を測る指標を設定して目標と出来ないだろうか?」というものでした。
事業コンセプトを再定義するお仕事に関わらせて頂き、その流れで経営者様から頂いた言葉でした。
この会社様は店舗ビジネスではない訪問サービス業のため、Webからの問い合わせ件数や顧客からの口コミ・紹介数が、これまでの会社の目標となっていました。
なぜ「事業コンセプトの浸透度」が重要なのか
こちらの会社様は業績的には特に問題なく、数字面を捉えれば良好な会社様です。安全余裕率と労働生産性の高さは特筆すべきものがあり、特に労働生産性はその要素である「従業員一人当たり売上高」と「売上高付加価値率」の両方が右肩上がりで推移しています。それを裏付けるように、組織運営も丁寧にされていて、社員さんの満足度も高いです。
しかし経営者様としては、現状の目の前の仕事をせっせとこなしているだけでなく、持続的な会社発展に向けて独自の価値観・ビジョン・提供価値を築き、世の中に存在意義ある会社としていきたいという強い思いがありました。規模拡大は追求していませんが、「ビジョナリーカンパニー」に通じる考え方です。
会社が思う会社の価値と、顧客が感じる会社の価値が必ずしも一致しているとは限りません。購入者にとっては「近くで購入できるから」とか「価格的に問題ないから」という理由で購入しているとしても、提供側では「品質」や「カスタマイズの自由さ」など違う軸に強みがあると認識している、というミスマッチも起こり得ます。
これは多かれ少なかれどの企業にもありそうですが、例えばスターバックスのように、多くの顧客が共通のイメージ・提供価値を感じている企業は、顧客エンゲージメント・満足度も高い傾向にあり、ある意味唯一無二の存在ともなっています。
この企業の経営者様は、ただ単に申込者や売り上げの大小だけでなく、事業コンセプトが正しく顧客に伝わることが長期的な顧客との信頼関係を築き、長きにわたり企業に利益をもたらす源泉となり得る、と考えておられました。
何を持って「事業コンセプトが顧客に浸透した」と考えるか
非常に抽象的な概念である事業コンセプトは、問い合わせ件数とは違い数字で表すことが出来ません。
顧客の理解がどこまで進んでいるのかの程度(浸透の深さ)と、理解している顧客数(浸透の広がり)の視点、そして顧客がどこまで理解すれば「浸透」したとみなすのか。。。
今回は事業コンセプトの浸透について「オフラインとオンライン」「浸透の広がりと浸透の深さ」という2軸で考えてみました。
オフライン×浸透の広がり
当社に強いエンゲージメントを持つ顧客群からの「紹介件数」を、浸透の広がり(顧客数)として指標設定しました。対象顧客群にグループインタビューやアンケートを実施したところ、事業コンセプトへの共感度が高いことが分かりました。そのため、この対象顧客群から口コミで広がった新規顧客は、事業コンセプトへの一定の共感を示していると判断しました。
今後は新規顧客に対してサービス提供時に簡単なアンケートやインタビューを通じて、事業コンセプトへの共感度を検証していく予定です。
オフライン×浸透の深さ
当社のリピーター全体に対して、コンセプトを伝達するための知的欲求を充足させる内容のイベントに招待し、来場者とのコミュニケーションを図ることとしました。そのイベントに参加されたリピーターはコンセプトの理解度が一定程度進んだと判断(理浸透の深さ)することとしました。
また、デザイン性のある会社紹介冊子を作成し、理解度浸透を図るなどと取り組みを考えています。
オンライン×浸透の深さ・浸透の広がり
事業コンセプト・社長経歴・社員紹介・過去の実績・公共性の高い仕事の紹介などの固定ページと、事業コンセプトを体現していてアクセス数の多いブログ記事へのセッション数、滞在時間を指標として設定しました。これらの指標を向上させるため、関連記事リンクの工夫・記事カテゴライズの見直し・サービス内容別の実績アーカイブページ作成・顧客の声を集めたページの強化、などを行い、HPに訪れた顧客の回遊を促す取り組みを行っています。
また、今後はブログ記事だけでなく動画コンテンツによる事業コンセプトの見える化や、「顧客との対談」コンテンツを作成して「当企業の顧客像」の見える化に取り組む予定です。
顧客への事業コンセプト浸透は、社内へのビジョン・ミッションの浸透に繋がる
「顧客に対する事業コンセプトの浸透度を目標とする」という視点は大変面白いと感じました。もちろん事業コンセプトが浸透しても最終的にサービスの購入に繋がらなければ利益を生まず、顧客に価値を提供したことにはなりません。
しかし、お客様に対する事業コンセプトの浸透を意識すると、自然と組織全体も事業コンセプトを意識するようになります。その結果組織が一つのベクトルを向くようになり、強力な推進力を生み出すのではないかと思います。社内に企業理念やビジョンの浸透を図ることは重要な組織の課題ですが、「顧客への事業コンセプトの浸透度」というマーケティング上の目標設定をすることにより、組織の方向付けや活性化にも繋がるのではないか、と期待しています。
より詳しくご相談なさりたい、という方はこちらからお問い合わせくださいませ。
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