サンクコスト(埋没費用)と経営判断

サンクコストとは
サンクコストとは埋没コストと訳され、「既に支出され、その後どのような意思決定をしても回収できない費用」を意味します。
事業運営におけるあらゆる投資は、それによって得られる効用を期待して行われます。しかし必ずしも投資に見合っただけの効用を得られるわけではありません。この時に、その投資に「後ろ髪を引かれて」未来の経営判断をすると、更に損失を拡大してしまう可能性が高くなります。
将来に関する意思決定をする場合、過去に発生したサンクコストは考慮に入れず、今から未来の損益をだけを考えた経営判断を行うべきです。
イニシャルコストとランニングコスト
それでは、サンクコストとなる費用はどのようなものでしょうか。それはイニシャルコスト全てと現在までに支払ったランニングコストということになります。
イニシャルコストとは初期投資費用のことです。代表的なもので言えば店舗・工場・設備等の取得費用などがあり、他にもソフトウェア購入費用、HP制作費用、クラウド導入初期費用など、様々なものがあります。
ランニングコストとは、事業を維持継続するための費用のことです。代表的なものは人件費・原材料費・光熱費・保守サービス費・クラウドサービスの月額利用料などが該当します。
サンクコスト例
事例
ある企業で800万円の機械Aを購入しましたが、それから2カ月たったときに、更に性能の良い機会Bが700万円で購入できることが分かりました。
Aをこのまま使用すると、年間のランニングコストが300万円かかるのに対し、Bを使用すると160万円で済みそうです。機械はいずれもあと5年使えます。しかし機械Aは自社仕様にカスタマイズして作ってもらった特注品のため、今売却しても350万円程度にしかなりません。なお、ABともに産出量や製品品質に差はありません。
このまま機械Aを使用するべきか、機械Bを購入するべきか・・・経営判断してください。
経営判断の例
まずこの状況を次のように整理します。
購入費用 | 年間操業費用 | 耐用年数 | 処分価格 | |
A | 800万円 | 480万円 | 5年 | 300万円 |
B | 640万円 | 200万円 | 5年 | ― |
このあと、サンクコストという概念がどのように経営判断に影響するかを確認してみます。
パターン①
既に購入済みであるAの購入費用はサンクコストです。Aの購入費用800万円は今後どうやっても取り返すことはできません。したがって今後の会社の業績を考える際には、Aの購入費用は無視して考えます。
0年目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | トータル費用 | |
A | なし | 480万円 | 480万円 | 480万円 | 480万円 | 480万円 | 2,400万円 |
B |
B購入費用640万円 A売却収入300万円 ※Aの購入費用は考慮しない |
350万円 | 350万円 | 350万円 | 350万円 | 350万円 | 2,090万円 |
現在以降のトータル費用はAが2,400万円、Bが2,090万円となります。したがってコスト削減による利益増加が見込めるのは、「Aを処分しBを購入する」という経営判断ということになります。
パターン②
Bへの買い替えについて、最近購入したばかりのAへ後ろ髪を引かれ「既に行った投資=Aの購入費用」を判断材料に含めた場合の経営判断は、次のようになります。
0年目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | トータル費用 | |
A | なし | 480万円 | 480万円 | 480万円 | 480万円 | 480万円 | 2,400万円 |
B |
B購入費用640万円 A売却収入300万円 A購入費用800万円 |
350万円 | 350万円 | 350万円 | 350万円 | 350万円 | 2,890万円 |
現在以降のトータル費用はAが2,400万円、Bが2,890万円となり、「今の機械A利用し続ける」という経営判断になります。
しかしAを購入した800万円は既に支払ったものであり、もう取り戻すことができない費用です。実際に以後生み出せる利益はBに投資した方が大きいにもかかわらず、Aを購入した費用に後ろ髪を引かれると、経営判断を誤る可能性があります。
まとめ
経営判断を行う際には、このサンクコストという概念が重要になります。既に支出され、その後どのような意思決定をしても回収できない費用であるにもかかわらず、これを未来の投資判断に反映させると、損失をより拡大させる可能性があります。
特に大型施工案件や新規事業投資など、社運を賭けたプロジェクトではこのサンクコストを意識しておく必要があります。追加投資に関する経営判断を行うときは、「過去の投資」と「未来の投資」を切り分けて考え、“現在をベースとして未来に利益を生み出せるかどうか”で投資判断するよう心掛けたいものです。
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